『北海道特別支援教育学会が果たす役割について』 特殊教育から特別支援教育への転換は、昭和54年の養護学校義務制の実施以来の大きな変化です。特別支援教育に係わるものは全てその変化に対応しなければなりません。 さらに、特別支援教育は、障害者基本計画の一環としてあるものであり、国の障害者施策の転換と関連させ、障害者自立支援法等の法令改正による福祉の状況の変化、労働機関との連携等との関連を図りながら、社会参加、自立等を総合的に検討しながら実施されていくものでなければなりません。 特別支援教育は「障害の有無にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会を目指す」ものです。その理念を具体化するためには、次のような新たな視点で、障害のある子どもたちへの教育を見つめ直さなければならないと思うのです。一点目は、少し前まで、LD、ADHD、高機能自閉症等といわれていた、これまで特殊教育の対象とはなっていなかった、いわゆる軽度の発達障害のある子どもたちへの教育です。 当然、これらの新しい障害について、医学的な側面も含めてその特性を理解し、教育の内容・方法を検討していく必要があります。 二点目は、これまで、障害の種類と程度によって特別な教育の場を設けて教育を行っていた特殊教育から、一人一人の教育的ニーズに対応した特別支援教育への転換です。障害の種類と程度が同じであっても、教育的なニーズが異なっていれば、教育の内容も、方法も、そして教育の場も違ってくることになります。また、地域により、学校により、本人・保護者の希望により、違いのできる教育でもあります。「教育的なニーズとは何か」の吟味も含めて、対応を検討する必要があります。 三点目は、多職種連携教育としての特別支援教育の検討です。特殊教育も保護者をはじめ医療や福祉等、関係者、機関との連携は欠かせないものでしたが、特別支援教育は、障害者基本計画の下、乳幼児期から卒業後まで、生涯にわたる一貫した支援が求められており、医療、保健、福祉、労働等、関係諸機関との連携を図った教育活動を充実させていく必要があります。 四点目は、障害観の変化に対応した教育についてです。WHOが示したICFの概念は、世界的な障害者施策の方向性を示したものであり、特別支援教育の理念も、これを元にしているものです。他機関との連携を図った教育を実践する際には、ICFを共通の言語としていく必要があります。 これらの視点を踏まえ、今後はこれまでの教育にはなかった課題に取り組む必要がありますし、実践を重ねていくことにより、さまざまな新たな課題が見つかることと思います。広域な北海道ならではの課題も見つかることでしょう。 特別支援教育が掲げた崇高な理念の実現に向けて、その教育に係わる者たちが、立場を超えて参集し、課題解決のために研究、研修していくことが重要です。 私の恩師でもある特殊教育の先達はかつて「学校教育史における教育実践論は、教育学者に代表される実践なき教育理論と学校教師による理論なき教育実践論である」と述べられました。 「北海道特別支援学会」は、北海道の特別支援教育に係わる全ての人が、職種や立場を超え、この教育の理念の具現化のために、知識と経験、疑問と智恵を持ち寄り、共通理解を目指して語り合える場としての役割を果たしたいと思います。 様々な人々の輪を広げつつ、理論と実践の双方からの学びを通し、本道の障害のある子どもたちへの新しい教育が充実するとともに、障害の有無にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会が、この北海道において、少しでも早く実現するように努力する組織でありたいと願うものです。