インフォーマルアセスメントとは、知能検査などの標準スコアから評価する方法とは対照的に、ふだんの授業や生活における行動・ふるまい、面接、課題やテストなどから個人の特性を評価する方法です。学校では一般的にカリキュラムに照らし合わせたアセスメントが行われますが、インフォーマルアセスメントには基本的に基準はなく、「個人」について深く理解するアプローチがとられます。
ここでは、現場の先生がた(通常学級、特別支援教育学級・学校を問わず)がわかりやすい、またすぐに使えるアセスメント手段について説明します。基本的に定型発達を含むすべての児童・生徒が対象ですが、ここでは特に、通常学級でも大きな課題となっている発達障害のある、またはそれに近接している児童・生徒に注目したいと思います。
特別支援教育のアセスメント
みなさんご存じのように、特別支援教育は障害の有無にかかわらず、「個人」についてその特性を把握し、個人に必要な(「個別のニーズ」とよく言われているものです)支援を計画・実践します。アセスメントはこの課程においてなくてはならない機能です。このアセスメントに対して認識しておきたい点は、
児童・生徒との教育的関わりすべてに関係する独立したテストや検査ではなく、むしろそれらと観察などの情報収集が連続しているもの病院や入学・進級時などの包括的アセスメントのみならず、日々の学校等におけるアセスメントも不可欠このようなことがわかっていても、現実はそう簡単にはいかないものです。教育現場では、どのような課題があるのでしょう?
子供が抱える困難がわからない、または絞り込めない
特別支援教育コーディネーターと担任教師の連携がイマイチ
支援目標や計画があいまい
診断名(アスペルガー症候群、学習障害など)にとらわれないアセスメントを行いたい
発達障害などの専門的知識がそれほどなくても子どもを理解したい
これらのような課題はどの学校にも少なからずあるものです。そこで、プリアセスメント・チェックリストというものを作ってみました。プリアセスメントとは…
という意味の(勝手に作った)造語です。このチェックリストは…
- アセスメントにおける着目点を絞り込む
- 教師・支援者の視点を系統的にまとめる
- 個別の支援計画(指導計画)作成の手助けをする
- 児童・生徒の「得意なもの」「苦手なもの」を見つけ出す
…のような目的を持っています。何はともあれ、チェックリストをダウンロードしてごらんください。
ここをクリックしてプリアセスメント・チェックリストをダウンロード
プリアセスメント・チェックリストは、以下のようなアセスメントの流れの中で、「とっかかり」の役割を果たします。
このチェックリストは、北海道教育大学旭川校の大学院授業「特別支援教育アセスメントⅡ」でのアクティビティを基盤としています。ダウンロードされたファイルの末尾にもありますが、現役大学院生と、地域幼稚園、小学校、特別支援学校の先生方との連携によってチェックリストが作られました。
チェック対象者
幼児期から青年期(高校レベル)
障害種は制限しない
通常学級から特別支援学校まで幅広く対応
記入者
対象児童・生徒に関係する全ての教員・支援員
複数の観察者がそれぞれチェックリストを記入することが望ましい
記入時間
約30分(子どものレベル、記入者の慣れによって変わる)
チェックリストの表紙にも使い方が記されていますが、ここでも簡単に使い方をまとめておきます。
記入方法
対象の児童・生徒について、当てはまると思われる「項目」だけ記入してください。全ての項目に記入することはありません(たぶん、不可能です)!当てはまるとは、問題点や困難点だけではなく、うまくできている点や注目している点についても意味します。
「状態」欄にその項目について記入者が気づいたこと(思っていること、評価していること、困っていることなど)をメモしてください。ご注意!どのようなことを記入したらよいか分からない場合のために、「例」欄に記入例を記してあります。これはあくまでも例であり、例に書いてあることについて児童・生徒をチェックしないでください。
「チェック」欄には、記入したことが児童・生徒個人にとってどのようなものであるかを、記入者の視点で記入してください。これも、「例」欄を参考にしてください。以下は、チェックする際の基本的な指標です。
- 「+」長所、得意なもの、他の生徒と比べて抜きんでているもの、児童生徒本人の状態を全体から見て出来ていると思われるもの
- 「−」短所、苦手なもの、他の生徒と比べて遅れているもの、児童生徒本人の状態を全体から見て問題と思われるもの
- 特に決められない場合は空白のままでOK
- 児童・生徒の状態によっては、一つの項目で+と−両方にチェックする、または棒線を引くなどする
記入サンプル
チェック項目のまとめ方
記入した項目と状態を、プラスとマイナスに分けて記入します。
記入のフォーマットは特に決まっていません。記入者がやりやすい形で良いと思います。参考までに簡単な結果表を作りましたので、よろしければ下をクリックしてダウンロードし、ご利用ください。
ここをクリックして結果表をダウンロード
プリアセスメント・チェックリストは、あくまでもアセスメントの前段階です。結果をまとめた時点で、対象児童・生徒についてある程度の把握が出来ると思います。ここから進むべき方向は無限にあると思いますが、いくつかの例を挙げます。
標準テストとの比較
対象児童・生徒のWISCやK-ABC、または他の検査や尺度の結果とプリアセスメント・チェックリストのまとめを比べます。共通点があればその点についての信頼性はさらに高まります。一方、相違点があった場合にはさらなるアセスメントが必要ということになります。
複数のチェックリストをまとめる
プリアセスメント・チェックリストは、記入者の主観で記入し、まとめていきます。このため、対象児童・生徒に対して一人の記入者の場合、客観的な分析には無理があります。そこで、学級担任、コーディネーター、支援員、管理職など、なるべく多くの人にチェックしてもらい、それをまとめることによって学校全体の視点で児童・生徒をアセスメントすることが出来ます。
個別の支援(指導)計画へのつなぎ
プラスとマイナスの項目をまとめることによって、支援のある程度の方向性が見えてきます。ここで注意していただきたいのが、支援策を優先的に固めていかなければならないのは、プラスの項目です。まず、児童・生徒本人が出来ること、得意なことを維持そして伸ばすことによって、成功体験を重ねることが出来ます。次にマイナスの項目についてですが、本人にとっての重要度でランク付けしていきます。つまり、本人や他の児童・生徒の安全や学級運営への著しい影響など、今すぐに対処が必要なものは優先ランクとなります。ランクしたもの全てに支援策を立てなければならないというわけではありません。現場の状況によっては一つずつ解決していっても良いのです。
個別の教育支援計画には地域によってさまざまなものがありますが、基本的構成は同じです。プリアセスメント・チェックリストでまとめたものを、より焦点を絞ったアセスメントへの橋渡しとし、支援計画策定の大まかな目安として活用してください。
ご利用にあたってひとつお願いがあります。
プリアセスメント・チェックリストは現在発展途上であります。みなさんのご意見によってさらに使いやすく、効率的なものにしていきたいと考えております。
このチェックリストをご利用の際は、ぜひ、フィードバックをください!
メールアドレスはプリアセスメント・チェックリストの最後のページにあります。
よろしくお願いいたします。
北海道教育大学旭川校
特別支援教育分野
萩原 拓