特別支援学校編
2007年度に特殊教育から特別支援教育に変わったことにより、通常の学校教育現場においても特別支援教育の観点や指導法が求められるようになり、特別支援教育に対する関心が大変高くなってきています。それに伴い、本学においても特別支援教育実習を希望する学生が、専攻に関係なく多くなってきました。しかし、特別支援学校における教育実習は、実習校の受け入れ条件などにより制限があり、希望するすべての学生が履修できるという状況にはありません。それゆえ、実習を希望する学生には、特別支援教育に対する高い志が求められていると考えていいでしょう。
1、特別支援教育実習について
特別支援教育実習は、釧路市内及び道内の特別支援学校で履修します。実習校の決定は、実習委員会で行いますので、必ず希望する実習校になるとは限りません。実習先によっては、交通費、宿泊費が自己負担となることがあります。実習時期は、5月末又は6月から12月までの間で、実習期間は、実習先の学校により2週間の場合と3週間の場合があります。
特別支援教育実習を履修する要件は、「障害児心理学」「障害児の心理アセスメント」「障害児の病理と生理」「障害児観察指導法」「障害児支援法Ⅰ」の5科目が履修済みであることとしています。また、実習参加年度の前期に行われる「特別支援教育実習事前指導」に合格していなければなりません。この条件が満たされていない場合は、特別支援教育実習を履修することはできません。
また、特別支援教育実習の履修が決まった際は、教育フィールド研究Ⅳに登録し、特別支援学校等でボランティア活動を行い、実習前に、実際に障害のある子どもの指導体験を積むこととしています。
尚、本学が認定を受けている特別支援学校教員免許は、「特別支援学校教員免許(知的障害領域)」です。それ以外の領域(視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、病弱)は、本学では取得することはできません。
2、特別支援教育実習の実際
特別支援教育になったことにより、特別支援学校も大きく変化してきています。障害のある子どもの重度重複化の状況に合わせて、特別支援学校も多様な障害種を受け入れるようになり、基本的には障害種別の養護学校ではなくなりました。ですから、特別支援教育実習で対象となる子どもは、知的障害を中心としつつも肢体不自由のある子どもや聴覚障害、視覚障害、自閉症などの障害のある子どもなど多様な障害のある子どもとなります。それ以外にも、てんかんなどがある子どももいますので、医学的、心理学的な基礎知識を押さえておく必要があります。また、食事や排泄などの生活習慣が未確立の子どももいますので、そのような支援も視野に入れておかなければなりません。
介護等体験ですでに障害のある子どもと触れ合う機会があったのでしょうが、障害のある子どもにどのように接近していくかは、それなりの経験が必要となりますので、実習前に、養護学校等でのボランティアの経験が必要となります。また、対象年齢も小学部から中学部、高等部(高等養護学校)と幅広いので、配置された学部にふさわしい対応が求められます。
また、小・中学校の授業とは違い、特別支援学校の授業は、チームで行います。授業を行うメインティーチャーのほかに、子ども達への具体的支援を行うザブティーチャーが複数名いて、授業が展開されていきます。特別支援教育実習における研究授業では、実習生がメインティーチャーの役割を担い、授業を行うことになります。授業も各教科の授業のほかに、生活単元学習や遊びの指導など多様であり、実習前に、特別支援学校教員免許科目のしっかりとした復習や特別支援学校の学習指導要領・解説をよく読んでおくことが必要となります。
授業に際しては、特別支援学校に在籍するすべての子ども達には、「個別の指導計画」「個別の教育支援計画」があり、一貫した指導を受けていますので、それを踏まえた内容が求められます。ですから、実習生には、その学校の教育システムや指導方針に沿いつつ、指導教員と子どもや授業に関する情報収集と綿密な打合せを行い、クラスにいる子ども達一人ひとりの実態を把握し、個別の指導目標を立てなければなりません。また、それにあわせて授業における子どもの評価の観点を明示し、それに沿った評価をしなければなりません。
3、子どもを理解するということ
障害のある子どもを理解するためは、「障害」に関する知識が必要です。例えば、自閉症の特性を理解しているからこそ、自閉症のある子どもに対して適切な関わりができるのです。しかし、自閉症のある子どもがすべて同じということではありません。目の前にいる子どもには、その子なりの特性があります。それは、本人自身が持っている自閉症という特性のほかに、それまで本人が経験してきたことや学んだこと、置かれた環境など、さまざまなものが複雑に絡み合っているからです。「○○の障害だからこうすればいい」ということはありません。担当する子どもをしっかり観察し、「その子ども」を理解していくということに目を向けていかなければなりません。
4、教材・教具、指導の工夫について
授業は、教材・教具と指導という媒介を通して行われます。教材・教具は、子ども達が興味・関心を持ち、親しみやすいものを準備することが必要ですが、それに加えて、子どもの能力に照らし合わせて課題の難易度を考えていかなければなりません。そして、そのことは、子どもの持つ意欲との関係も考慮していくことが必要となります。それは、提示する教材・教具への興味・関心との相関の問題でもあるのですが、意欲が高い場合であれば、それなりの難易度のある課題でもチャレンジしてくれるでしょうが、意欲が低い場合は、手を出さないかもしれません。そのような子どもには、興味・関心を高め、確実にこなせる課題を準備してあげなければなりません。
指導にあたっては、これまで本人が学習したものを活用し、それを踏まえた指導の工夫が求められますが、障害のある子どもとの関わりは、予定的に進むものではありません。その場での対応が常に求められると考え、創意工夫に満ちた創造的な関わりが求められていると考えてください。
もちろん、指導で最優先されるのが、子どもの安全です。自ら身の安全を確保することが困難な子どもが対象となるのですから、子どもから目を離さず、常に「子どもの安全を確保すること」を忘れてはなりません。子どもの生命を預かっている仕事という自覚が求められます。
5、実習に際しての留意点
チームで仕事をするという特別支援学校の特性も踏まえて、特別支援教育実習において重要なのは、周囲の先生方とのコミュニケーションです。問題を抱え込まず、周囲の先生の意見を求め、また自ら発信していくことが必要となります。そのためには、他者の意見を柔軟に取り入れていくことができる幅の広さと考えを発展させていく創造力とが求められます。また、障害のある子どもを育てている保護者への共感的な理解、関わりも忘れてはなりません。保護者と直接関わることは、あまりないと思いますが、子どもの背後に愛情を注いで育てている保護者や家族の存在を感じていただきたいものです。
(文責・二宮信一)
特別支援教育実習に臨む心得.pdf