発達支援Q&A

発達支援Q&A

質問その15  ヒントの出し方とは?


Q 塾で自閉症の子どもがいます。一度ヒントをあげたら、その後も毎回ヒントをもらいに来るようになり、自分で考えることをやめるようになってしまいました。どうしたらよかったのでしょうか

 

A あなたには「今日は特別だよ」という暗黙の了解があったということですね。

しかし、子どもにはこれが「特別なヒントだ」ということが分かる状況にあったのでしょうか。

「ヒントを出すことが、先生の指導のやり方なのだな」と勘違いされているのかもしれません。

 「どのような時にヒントを出すのか」ということを、しっかりその生徒に説明した上で、子どもの対応が変化するかどうか、様子を見てみましょう。

 例えば「私は普段ヒントを出しません。先週ヒントを出したのは~という理由があったからです」などとです。

質問その16  子どもと保護者の溝への対応とは?


Q 子どもと保護者との間に、指導に関して溝が生まれた場合、どのように対応していけばよいでしょうか。

 

A 子どもと親の溝は当然生じます。むしろ溝がある状態が普通だろうと思います。

 そのような場合の第三者の役割は、まずは両者の思いを通訳するというところから始めたら良いと思います。

 子どもの思いが親に伝わり、親の思いが子どもにわかるように翻訳されていないからこそ、溝ができるのだと私は考えています。

 ですから、親が見えていない子どもの思いを親側に丁寧に説明し、また子どもが見えていない親の思いを子ども側に丁寧に説明する、その通訳役としての役割を担っていくことが大事です。

 子どもと親の関係に白黒つけるような介入は、時に、親子関係のバランスをさらに崩してしまうことにもなりますので気を付けましょう。

 相談者は、時に、ダブルスタンダードにならざるを得ない時もありますが、通訳という
枠組みを守り、またその役割が親と子どもに認識されていれば、ダブルスタンダードな発言をしても、矛盾や転向と受け取られるリスクは少ないと思います。


「あなたは私たちの間にある溝を丁寧に埋めてくれる存在なのね」と、信頼してもらえるようになりましょう。

 また「私は教育の専門家ですから、私の判断が正しいのです」というような独善的なスタンスで介入すると、「私から見るとあなたは正しいが、あなたは間違っている」という裁判のようなものになってしまいます。

 人間関係は、因果関係で割り切れるものではありません。

 裁判官として人間関係を調整しようとすると、当面の問題については問題解決するかもしれませんが、親子関係のバランスが崩れたままの場合、将来、新たな課題に直面化したとき、親子の葛藤が容易に再燃する可能性があります。

質問その17 温度を伝えるには?


 Q お風呂の話(自分では熱い湯だと思ったが、一緒に入っていた人が平気そうだったので、無理をしてのぼせてしまった)がありましたが、水温を示すものがあれば、そうならずに済んだのでしょうか。

 

A 水温を示すだけでは足りないと思います。

 水温を示すものに、「ここからは熱い」
「ここからはぬるい」という世間一般の基準が記されていることが大切です。

 例えば「静かにしてください」の「静かに」や「ちょうどよい声の大きさで話しましょう」という時の「ちょうどよい」を考えてもわかると思いますが、「今、30デシベルです」とか「あなたの大きさは85デシベルです」と数字に置き換えられるだけでは、大きいのか小さいのか分からないですよね。


数字そのものには何も意味がないですから、その数字をどのように解釈すれば良いのか、解釈の例を示してあげるということが大切です。

質問その18 板書の形式は?


Q 中学校では板書の形式を指定する先生としない先生がいると思いますが、どちらが有効だと思いますか。

 

A  自閉症の方の中には、二重課題が苦手な人が多くいます。

 板書しながら先生の話を聞くというのも、立派な二重課題です。両方同時に、が難しいのです。

 中学校では、板書したノートの提出が求められ、さらにはそれが評価の対象になることがありますね。

 そのことが、本人の負担になっている場合があります。

 内容をしっかり理解しているのであれば、板書の取り扱いは、生徒の実態に合わせて臨機応変でも良いのではないでしょうか?

 生徒が自分に合った勉強の方法を自覚しているときは、なおさらに勉強の形式まで押しつけないでほしいというのが、私からのお願いです。

質問その19 不確定な予定に対応するには?

Q 不確定な予定に対応できない方に、どのように対応したら良いでしょうか。

 

 A この世の中から不確定な状況をなくすことはできません。

 自閉症の方々も、ある程度不確定な状況に対応できるタフさと知恵を持たなければなりません。

 一朝一夕にできるようになるものではないので、普段の生活・学業において、その子どもが解決できる程度の難易度で不確定な状況を設定し、本人の力で解決する経験を幼児期から青年期にかけて積み重ねなければいけません。

  「パニックにさせないように」「不安を感じさせないために」などの理由から、スケジュール、手続き、配置等の環境要因を過度に固定化してしまうことは、不確定な要素に対しての心構えが育たない恐れもあり、その場合、社会に出る段階ではじめて問題が顕在化することもあります。

 「不確定さをなくそう」とするスタンスよりも、「環境を彼らに合わせて構造化しつつも、その子どもが自力で乗り越えられる程度の不確定さを常に環境の中に含んでおく」スタンスの方が、現実的であろうと思います。

 忙しい今の教育現場では、子どもの指導に対し試行錯誤する時間がないと言われます。

 子どもに合った難易度を見極めるための時間が確保しにくいのは確かです。

 まずは取り組みやすい課題から始めて、子どもの変化を見ながら、修正すべき点を見出し、次の課題に取り組むという作業を、計画的にコツコツとやっていくしかありません。