発達支援Q&A
質問その5 困っていない当事者には?
Q 困っていない当事者にはどうすればいいですか。
A 年齢が低ければ、自分の状態を自分で自覚するのは難しいので、幼児期・学齢期においては基本的に、自分の問題に気づかずに困っていると考えてほしいです。
そのような子に、ただ単に診断名を伝えることは有効な支援にはなりにくいと思います。
大事な点は、教師側が「現段階で本人は困っていることを意識化していないが、この先、困るのだろうな」という予測が成り立つなら、先回りして支援をしてほしいです。
そして、信頼関係ができたところで、少しずつ支援を減らしてみると「なんだか、最近、うまくいかないな」と子どもが感じ始めます。
信頼関係があれば、先生に相談や何らかのサインがあるので、その時に「実は先生は、○○について支援をしてきたのだけれど、最近、○○君は自分で解決できるようになってきていたので、支援を弱めていたんだ。困っていることを意識化できたことはえらいね。どうやって解決できるか、先生と一緒に考えてみよう」と提案するといいと思います。
うまくいっている状態をまず体験させ、徐々に支援を減らしていき、本人に気づきをうながすことが大事なのです。
質問その6 怒らせてしまった時の対応は?
Q ASDの人が怒った時にはどうしたら良いですか。
A 「ごめんなさい」と謝る時に、我々が示している表情や態度といった
ノンバーバルな情報がうまく読み取れない方もいるので、そういう時
には言葉で気持ちを伝えてほしいです。
「私があなたを不快にさせたのは~だからですね。私は、今反省しています。
今後はあなたに対してこのような行動をとらないことをお約束します。」という
ように、暗黙にある情報をきちんと言語で補足して謝ってほしいです。
質問その7 怒るときの怒り方とは?
Q アスペルガーの人が失礼なことを言った時、怒ってはいけないのですか。
ただ分かってもらうためには、伝え方に工夫が必要です。
例えば、「表情で分かってくれない時は、言葉でしっかり伝える」というように、伝える手段を切り替えて対応してほしいということです。
怒鳴られた時、アスペルガーの人の中には、なぜ怒っているのか理解できないまま混乱し、「なぜ大きな声を出しているのだろう」などと、表面的な行動しか把握できない人も多いからです。
そういう時こそ冷静になって、「あなたの言動は、私を非常に不快にさせました。そうではなくて、○○という表現であれば、私は理解できるし不快にならないのですが、言い直してくれないでしょうか」というように、理性的に言葉で交渉することが大事です。
自閉症の方が何を手がかりに相手の心を理解しようとしているのかをまず理解しましょう。相手が理解できる表現を使えるのであれば、怒っても問題はありません。
質問その8 図画工作の説明の仕方とは?
A 簡単なのは、紙で作ったお花(完成品)を見せるだけで良いと思います。
本当のお花を、紙で作れと言っているのではなく、紙を材料に紙のお花を作りましょう、と暗黙の事実を伝えるだけで良いのだと思います。
質問その9 図画工作の説明の仕方(2)
Q 図工の際、自分の作図と作品がうまく一致しないときに、自閉症の子はどのような反応を見せるのですか。またどのようにフォローすれば良いですか。
A 先生がはじめから完璧な結果、つまり優秀な作品をモデルとして見せてしまった場合には、自分が作成した作品と、モデルとの差が大きすぎるので、早々に落胆してしまうことになります。
彼らは「ちょっとの失敗も許せない人」との烙印をおされて、段々と図工から離れざるを得ないことになってしまいます。なるべく現実と理想の差分を小さくしてあげれば、「乗り越えられるだろう」という予感を高めることができるかもしれません。
私が以前行ったことを例としてあげましょう。
「あなたたちは、これから七宝焼きを作ります。小さなペンダントに絵を描くのは大変難しいことです。上手に描けるというのはこれくらいだとAランク、ちょっと下手だとこのBランク、もう少し下手だとこのCランクになるでしょう」というふうに、その子ども達の能力に応じて、それぞれに相応したモデルを複数提示しました。
次に、制作に入る前に「自分は何ランクだと思いますか」と予測させました。そうすると子ども達はわりと正確に、自分の実力に応じてランクを選んでいました。
最初の目標設定が実力に相応したものであれば、途中で投げ出す子が少なくなることにも気づきました。
つまり、工作に限らず、自閉症の子がちょっとの失敗にくじけたり、一番じゃなければ許せないというのは、大人が理想像しか伝えていないことが大きな要因だと、私は考えています。
上達するプロセスには、色々な段階があり、しかもそれぞれの段階は個性として受け入れられるものだということが、保証されていない環境では、「やっぱり先生と同じくらい上手に作れない、自分はダメだ」と思ってしまうんですね。
子どもの能力からかけ離れたモデルは、子どもに無言のプレッシャーを与えているんだろうと思います。